人材育成支援
アジア向け講師育成事業

目的・概要
  • 事業目的
      講師育成事業(Instructor Training Program, ITP)

       本事業は、1996年から国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力人材育成センター(現 原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター)が、アジア諸国における原子力分野の人材育成を行うことで日本国内の原子力施設立地地域がアジア諸国の国際交流拠点となることを目指し、文部科学省からの受託事業として実施しています。当初2カ国であった参加国は、現在11カ国となりました。

  • 事業概要
      次の研修を実施しています。
      1. 講師育成研修(Instructor Training Course, ITC)

         ITCは、原子炉工学、原子力/放射線緊急時対応、環境放射能モニタリングの3分野において技術指導ができる講師を育成する研修です。アジアの研修生(講師候補者)は3週間または5週間茨城県東海村に滞在し、専門家による講義や様々な実験装置を使用した実習、原子力関連施設への訪問などを通して、講師として必要な基礎知識を習得します。

        • 原子炉工学コース

           原子炉工学全般の知識とその知識を講師として伝える技術を身につけることを目的としており、原子力に携わる技術者や研究者、大学教員を対象としています。原子炉物理、熱水力、燃料、材料及び安全性について学べるようカリキュラムを構成しています。

        • 原子力/放射線緊急時対応コース

           原子力施設や放射性物質取扱施設の内外で放射線に関する事故が発生した場合の緊急時対応に関する知識や技術を身につけることを目的としており、原子力に携わる技術者や研究者、大学教員などを対象としています。カリキュラムの一部は、環境放射能モニタリングコースと共通となっています。

        • 環境放射能モニタリングコース

           環境放射能モニタリングの知識や測定技術を身につけることを目的としており、原子力に携わる技術者や研究者、大学教員などを対象としています。カリキュラムの一部は、原子力/放射線緊急時対応コースと共通となっています。


      2. フォローアップ研修(Follow-up Training Course, FTC)

         FTCは、ITC修了生の母国で開催する研修です。ITC修了生が中心となって研修を運営し、講師を務め、現地の参加者にITCで学んだ知識や技術を広く伝えます。ITC修了生は、FTCで講師経験を積むことにより、一人前の講師へと成長します。FTCには日本から専門家を派遣し、講義を行うとともに技術指導を行い、各国の研修の自立化を目指します。

        •  ITC修了生は講師となり、自国で原子炉工学、原子力/放射線緊急時対応、環境放射能モニタリングの研修を開催しています。現在は、バングラデシュ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、トルコ、ベトナムにおいて 開催されています。


      3. 講師育成アドバンス研修(Advanced Instructor Training Course, AITC)

         AITCは、原子炉工学、原子力/放射線緊急時対応、環境放射能モニタリングの3分野において、FTC講師をレベルアップするための研修です。研修生は1.5週間茨城県東海村に滞在し、各分野の研修毎に定めた特定のテーマについて深く掘り下げて学べるように構成された講義や実習等を通して、高度で専門的な知識や技術を習得します。


      4. 原子力技術セミナー(Nuclear Technology Seminar)

         セミナーは、特定の分野に精通した技術者・専門家等を育成するための研修です。原子力プラント安全、原子力行政、原子力施設立地の3コースは福井県敦賀市で、放射線基礎教育コースは茨城県東海村で開催します。研修生は日本に1~4週間滞在し、講義や実習だけでなく原子力関連施設の訪問や討論会、立地地域での人材交流を通して、それぞれの分野における専門性を高めます。

        • 原子力プラント安全コース

           アジア各国の放射線利用技術や原子力基盤技術等の研究開発及び発電炉や研究炉の運転等に携わる技術者・研究者等を対象とし、日本の発電炉や研究炉などの原子炉施設等に係わる安全技術の講義、実習及び原子力関連施設の見学を行うとともに、各国の原子力発電計画に関わる情報交換や討論を行います。

        • 原子力行政コース

           アジア各国の原子力行政に携わる行政官等を対象とし、原子力政策や安全行政を初めとして、原子力安全文化、原子力施設の安全対策と安全管理、人材育成等、行政官に必要な幅広い内容の講義及び原子力関連施設の見学を行うとともに、原子力発電導入に向けた各国の状況についての情報交換や討論を行います。

        • 放射線基礎教育コース

           アジア各国で、原子力や放射線に関する正しい知識を地域住民や学生・生徒へ伝えられる人材の育成を目的としており、原子力関係機関や行政機関で広報活動に携わる人や学校教育行政に携わる人、学校の教員などを対象としています。研修では、原子力・放射線などの基礎的な講義や実習、日本の放射線教育に関する講義、さらには、効果的な知識・情報の伝達法を学ぶ実習を行います。

        • 原子力施設立地コース

           アジア各国の原子力規制や広報に携わる行政官を対象とし、原子力施設の立地に係わる法律や審査事項、公共への広報活動、リスクコミュニケーション等の講義及び原子力発電所建設予定地等の見学を行うとともに、原子力施設立地に関連する各国の状況についての情報交換や討論を行います。





核不拡散・核セキュリティ


概 要

 核不拡散(保障措置)・核セキュリティを強化するためには、この分野の知識と知見を持った専門家の育成が欠かせません。核不拡散・核セキュリティ総合支援センターは、アジアを中心とした国々及び日本国内における核不拡散・核セキュリティ強化を目的とした人材育成支援事業を展開しています。

 人材育成支援を効果的に行っていくためには、国内外組織との連携や、コース内容の充実化を含め、継続的な向上が重要です。核不拡散・核セキュリティ総合支援センターでは、コース参加者からのフィードバックを活かして更なるトレーニングの質の向上に向けた努力を行っています。

  • 対象とする参加者のニーズを調査し、ニーズに応じたコースを開発、様々な形態で実施しています。
  • 講義、グループ演習やディスカッション、施設見学、トレーニングツールを用いた実習を活用し、コース内容のより深い理解と実践的な能力構築を促進します。参加者のニーズに応じ独自のトレーニングを開発します。
  • 関係組織との連携:ニーズの収集、最新動向や専門家からの情報のコースへの反映を図ります。海外の同様の能力構築支援機関との交流や協力を通じ、情報交換やコースの共同開発及び共同開催を実現します。
国内外組織との連携体制
トレーニング

各国が所有する核物質が平和利用に限定して使用されること、及び盗取や妨害破壊行為から効果的に防護されることを促進することを目的に、次の3分野に渡るコースを提供しています。

  1. 核セキュリティコース
  2. 保障措置・国内計量管理制度コース
  3. 核不拡散に関わる国際的枠組みコース
目 的
    コースの提供を通して、
    • 知識の共有
    • グッドプラクティス等経験の共有
    • 法的基盤整備の支援
    • 国内計量管理制度及び核物質の物理的防護に関する実践的な能力構築
    に資することを目指します。
ニーズに基づいた支援
    対象とする参加者に応じたプログラム開発
    • 政策立案者向けの意識啓発コース
    • 実務者向けの実践的コース
    • レベルに応じた初級・中級・上級コース
  •  研究開発機関(原子力事業者)としての豊富な核物質防護等の知見・経験を最大限に活かして、これまで以下のようなコース実施に取り組んできました。

    核物質防護
    • 核物質及び施設の物理的防護(核物質防護)に係るトレーニング
    • 輸送中の放射性物質のセキュリティに係るトレーニング
    • IAEA核セキュリティ勧告 (INFCIRC/225/Rev.5)に係るトレーニング
    • 核物質防護検知システム性能試験トレーニング
    • 図上演習(TTX)トレーニング
    • シナリオ開発ワークショップ
    核セキュリティ文化
    • 核セキュリティ文化ワークショップ
    • 核セキュリティ文化自己評価ワークショップ
    • ISCN-WINS ワークショップ
       世界核セキュリティ協会(WINS)との共催で、演劇型セッション形式のワークショップを毎年開催しています。
    • 国内事業者向け核セキュリティ文化講演会
    事態対応
    • 核鑑識に係るトレーニングコース
    二国間協力
      支援対象国からの要請に基づき、ニーズに合った二国間での人材育成支援協力も進めています。
    • 核物質防護に関するセミナーやトレーニング
    • 放射性物質の物理的防護に関するセミナー、トレーニング

    核物質防護トレーニングにおけるグループ演習の様子

    2023年に二国間協力として実施した放射性物質の
    セキュリティに係る実践的なトレーニングの様子

  •  核燃料サイクルの研究開発機関としての経験・知見を活かし、保障措置・核物質計量管理に係るトレーニングを提供しています。トレーニングの実施にあたってはIAEAの他、国内外の関係機関と連携しています。

    国際トレーニングコース
    • IAEA保障措置のための国内計量管理制度(SSAC)
    • IAEA保障措置のための非破壊測定手法・技術
    • 追加議定書に基づく申告、補完的アクセス、大量破壊兵器資機材識別
    • 各国の保障措置・計量管理の経験の共有
    IAEA査察官トレーニング
    • 再処理施設の保障措置
    • 使用済燃料検認のための装置取扱訓練等
    二国間協力
      支援対象国及び日本国政府からの要請に基づいて、ニーズに合った二国間での人材育成支援協力も進めています。
    • 追加議定書に基づく申告に関するワークショップ及びセミナー
    • 保障措置・計量管理のトレーニング
    • イランにおける保障措置実施ナショナルトレーニング

    保障措置トレーニングにおける講義の様子

    保障措置用放射線測定機器を使用したトレーニング

    保障措置用放射線測定機器を使用したトレーニング

  •  支援対象国の要請に基づき、核不拡散・核セキュリティの制度や実施体制整備を含む国際枠組みのセミナーを実施して対象国内の関係者に対する意識啓発を行い、具体的な支援ニーズの特定に繋げます。

    • 原子力平和利用と核不拡散・核セキュリティの国際動向、国の政策、課題
    • 核不拡散・核セキュリティに関する国際枠組み、規則、具体的取組等
    • 原子力平和利用と核不拡散の両立に関する日本の取組事例の共有

    サウジアラビア

    バングラデシュ

    マレーシア

    モンゴル

    リトアニア

    ヨルダン

施設、設備紹介
  • ISCN実習フィールド(核物質防護実習棟)

     フェンスや侵入検知センサーなどの実機に触れ、その特性などを体験できるよう、核物質防護の基本的な設備等を配置し、効果的・実践的な実習を実施することができます。

    1F: サーバー室

    2F: 教室

    ISCN実習フィールド

    1F: 模擬中央警報ステーション(CAS)

    1F: 出入管理室

  • ISCN実習フィールド(バーチャルリアリティ(VR)実習棟)

     バーチャル空間上に仮想施設を構築し、これを使用して核セキュリティ・保障措置関連の演習を行っています。

  • 効果的・効率的なトレーニング実施に向けたツール開発

     2020年度以降、オンライントレーニング用に開発したツールや手法を対面式のトレーニングと組み合わせることにより、より効果的かつ効率的にトレーニングを提供できるようになりました。

    遠隔講義

    研究炉(JRR-4)のバーチャルツアー

    実践的なビデオ教材

    映像教材を用いたワークショップ

    オンライントレーニング用の講義資料

人材育成分野の国際協力

 人材育成分野ではトレーニングの開発や実施のために様々な国際機関や国際枠組み、諸外国の関係当局と協力を行っています。

  • 国際原子力機関(IAEA)

     ISCN/JAEAは、10年以上に及ぶ核セキュリティ分野のIAEAへの貢献が認められ、2021年10月22日付で「核セキュリティ分野」としてIAEA協働センター(Collaborating Centre)の指定を受けました。

     IAEA協働センターは、特定分野におけるIAEAのプログラム活動を支援することを目的としてIAEAが指定するもので、指定機関はIAEAとの間で作業計画を含む協定を締結し、結果・成果について年次レビュー会合においてレビューされます。

     本指定により、以下の活動を通してIAEAの核セキュリティに関する取り組みの技術的サポートや核セキュリティ人材育成のサポートを実施しております。

    • JAEAの核セキュリティ実務経験を活用したIAEAトレーニングコースのホスト開催
    • トレーニングコースや教材の開発
    • IAEA専門家会合やトレーニング、加盟国支援ミッションへの専門家派遣
    • JAEAにおいて実施している核物質探知・測定技術開発等の成果を基に、IAEAのプロジェクトへの協力や関連する技術会合のホスト等

    IAEA本部における銘板の授与式

    IAEA協働センター指定に伴い授与された銘板

    保障措置分野
    • 国内計量管理制度(SSAC)地域・国際トレーニング実施協力
    • 障措置協定少量議定書(SQP)締約国向け国際トレーニング実施協力
    • オンライントレーニング開発支援
    核セキュリティ分野
    • 核セキュリティ分野の協力に関する取決め締結(2013年~)
    • IAEA主催の核セキュリティ分野のトレーニングの日本開催協力
    • IAEA専門家会合へのISCN専門家派遣
    • IAEA主導の核セキュリティ人材育成支援センター(NSSC)ネットワーク活動への参加協力
      • ISCNはNSSCネットワークの活動を積極的に支援し、本ネットワークを通じた人材育成の良好事例を世界の同種の機関と共有することで核セキュリティ強化に貢献しています。
    • アジア地域ネットワーク(ARN)協力
      • NSSCネットワーク下で同じく活動している韓国の国際核不拡散核セキュリティアカデミー(INSA)及び中国の国家核セキュリティ技術センター(SNSTC)や中国税関放射線検知研修センター(RDTC)ともに「アジア地域ネットワーク(ARN)」として、事業計画の共有、トレーニングの共催・講師相互派遣、情報交換等の協力を行っています。
  • 米国エネルギー省国家核安全保障庁(DOE/NNSA)
    保障措置分野
    • トレーニングへの相互参加
    • トレーニング教材の共有
    核セキュリティ分野
    • アジア地域でのトレーニングの共催
    • アジア地域各国のトレーニングセンターへの共同支援
    • ISCN講師育成支援
    • トレーニング教材の共同開発

    DOE/NNSAからの講師派遣

    アジア地域でのトレーニングの共催

  • 欧州委員会共同研究センター(EC-JRC)
    保障措置分野
    • 国内計量管理制度(SSAC)トレーニングへの講師派遣
    • 国内計量管理制度のための非破壊測定(NDA)技術トレーニングの開発と実施
    核セキュリティ分野
    • アジア地域向けトレーニングへの講師派遣
    • トレーニングの共催

    アジア地域でのトレーニングへの講師派遣

  • ASEANエネルギーセンター (ACE)
    • ASEANのニーズに基いた核セキュリティ・保障措置に関するセミナー/トレーニングの共同開催
    • ASEAN+3(日中韓)関連会合に定期的に参加して情報共有を行い、ASEAN域内での核不拡散・核セキュリティ人材育成協力促進に貢献
  • アジア原子力協力フォーラム(FNCA)、アジア太平洋保障措置ネットワーク(APSN)
    • 核セキュリティ・保障措置等のプロジェクトを通じた貢献
    • メンバー国から提供された保障措置追加議定書良好事例集の取りまとめ
    • メンバー国間のニーズに基いたトレーニングの開発、実施
大学連携

 核不拡散・核セキュリティ総合支援センターでは、大学との連携協力に係る協定等に基づいて、毎年、職員等を講師として大学へ派遣し、核不拡散・核セキュリティについての講義を実施するとともに、博士研究員、特別研究生、夏期休暇実習生の受入れや、施設訪問の受入れ等を通じ、次世代の核不拡散・核セキュリティの担い手の育成に貢献しています。

 主な連携大学
  • 東京大学大学院工学系研究科原子力専攻(専門職大学院)
  • 東京科学大学
  • KAIST (Korea Advanced Institute of Science and Technology)
  • テキサスA&M大学

 またJAEAが実施している、全国の大学や大学院、高等専門学校に研究者・技術者を講師として派遣し、研究開発で得られた最新の成果や事業の状況などについて講義を行う「大学等への公開特別講座」の一環として、「核不拡散・核セキュリティを巡る国際情勢と日本の対応」に関する講座を継続して実施しています。

 開催実績
    香川大学、福井大学、東海大学、北海道大学、名古屋大学、鹿児島大学、国際基督教大学、アトランティックカウンシル、ジョンズホプキンス大学、ジョージ・ワシントン大学大学院
  • 講義・実習等の内容
    • 大学等への公開特別講座
      ISCN講演テーマ:「核不拡散・核セキュリティを巡る国際情勢と日本の対応」

       原子力の平和利用を推進するためには、原子力安全のみならず核兵器を持つ国を増やさないための核不拡散措置と、テロリスト等から核物質や放射性物質を防護する核セキュリティ対策が必要である。講演では、核不拡散及び核セキュリティがどのように発展してきたのか、世界的にどのような脅威があるのか、どのような国際枠組みや取組みがあるのか、最新の国際動向、特に国際原子力機関(IAEA)の役割等を紹介し、核不拡散・核セキュリティの概要について理解を促進する。また、核不拡散及び核セキュリティに係る人材育成支援、核不拡散(IAEA保障措置・計量管理)や核セキュリティ技術(核鑑識・核検知等)、包括的核実験禁止条約(CTBT)国際検証体制について、原子力機構の貢献及び技術開発の動向等を紹介する。なお、ニーズに応じて講演内容は調整可能である。

    • 夏期休暇実習
      【ISCN実習テーマ例】
      • 核不拡散/核セキュリティ/非核化に関する政策研究
      • 核不拡散・核セキュリティ人材育成支援事業の評価測定及び研修効果向上策の開発
      • 核鑑識及びその研究開発に関する実習
      • 核セキュリティのためのガンマ線・中性子測定技術開発
      • 包括的核実験禁止条約(CTBT)に係る放射性核種の解析
    • 核物質防護実習フィールド、バーチャルリアリティシステムの訪問を通じた核セキュリティの実習
    • 夏の学校

       2021年度より、ISCNの夏期休暇実習に参加される皆さんに「ISCN夏の学校」プログラムを提供しています。本プログラムは、夏期休暇実習生同士で交流しつつ、核不拡散・核セキュリティ分野の理解を深めて互いに議論ができるような場を提供することを目的としています。

      【実施プログラム例】
      • 核物質防護実習フィールド及びバーチャルリアリティ(VR)システム見学
      • 講義(保障措置・計量管理と最近の技術的課題、IAEA保障措置査察官の仕事等)
      • プロジェクト活動(原子力平和利用と核不拡散・核セキュリティに係る国際フォーラムのプレイベントとして実施される学生セッションの企画案作成)

       2023年度の実施報告はこちら ▶ ISCNニューズレター No.0322 October, 2023



その他関連リンク